キスは、今までに何回かしたことがあった。
付き合った人とは、それなりに触れ合って来た。
そのことを、朔ちゃんも知っていた。
…だけど、昨日みたいなことは、初めてだったから…。
普通に話してたの、嫌だったんだな、朔ちゃんは。
それでも、聞いてくれてたんだ。わたしが話すから。
「…」
あんな風に、朔ちゃんにされたのは初めてだった。
噛みつくように、逃さないように、何度も何度も触れて、わたしを閉じ込めていた。
「…っ」
ガン、と、頭に重りが乗ってくるようだった。
いくら幼馴染だからって、あんな風に、当たり前に、朔ちゃんのところへ行くわたしが、汚く見えてくる。
黒いインクがぼたぼたと落ちて、真っ暗に塗りつぶされていくようだ。
…朔ちゃんは、男の人なんだ。
わたしは、それを、今まで考えられてなかった。
…それは、わたしが、全部わるい。
「…っ…」
本当は、他の人とキスをしてしまったことが、許せなくなるのかもしれない。
朔ちゃんに、何をするの、って問い詰めて、怒ることもできるのかもしれない。
…でも。
「…わたしのせいだ………」
今まで構築してきた関係も、すべて、わたしが壊そうとしていたのかもしれない。
そう考えると、朔ちゃんを責めることなんて頭の中には浮かばなくて、ただ、これから朔ちゃんとどう向き合っていこうか、そんなことばかりが浮かんだ。