「…でも、あいつ、君花が初めてなんでしょ。だったら、俺の方がうまいんじゃない」
「?!」
聞いたことのない、言葉。
見たことのない、表情。
熱があるのかと思い、頰に手を伸ばしてみるけど、そんなものは無さそうで。
「…ほんと、生殺しだよね。毎回毎回」
「朔ちゃ…」
「いつも余裕なわけじゃないんだよ、ほんと、そういうとこ、腹立つ…」
「んっ…」
朔ちゃんの、きれいな親指が
顎先に触れたかと思うと、そのまま熱いものが落ちてきた。
「やっ、朔ちゃ…」
柔らかい熱い感覚。
匂いはよく知ってる。だけど、このくちびるに触れるのは初めてだった。
「っは…」
顔を思いっきり横に振ろうとしたけど、それは力づくで押さえられてしまって、そのまま、熱い熱が降り注いでくる。
知らない。 知らない。 知らない…!
こんな熱は、知らない。
…それでも、朔ちゃんが絶え間なく行うその行為に、頭がポーっとしてきて、わたしは抵抗する力を失っていた。
「…っは、…」
長い長い、朔ちゃんのキスが終わったのは、それから数分が経ったあとのこと。
最後に首元にくちびるが触れると、ちゅっと音を鳴らして離れた。
…まだ意識が朦朧とする中、朔ちゃんの方に目を向ける。
「…っ、ザマーミロ…」
涙が溢れる目が映したのは、同じく涙目の朔ちゃんだった。
眉間にしわをよせて、目を潤ませて、でも口元は笑ってる朔ちゃん。
見たことのない朔ちゃん。
彼のこの時の表情を、わたしは忘れることがないだろう。