「はい、できた。君花、持って行って」
「はーーい」
煮物が詰められた大きなタッパーを、ママから持たされた。さすが朔ちゃんの大好物。ママも、いつもより多めに入れてある。
家を出て、そのまま朔ちゃんの家に向かう。
…と、そこで足が止まった。
『…きみか……』
「…!」
さっき、ほんの数時間前、飛呂くんが耳元で呟いたわたしの名前。
触れた指、腕、背中、そしてくちびる。
「…はぁぁああ〜〜〜」
思い出すたびに、こうやって身体が硬直してしまっていた。
…うん、そっか、そうなんだよね。
わたしは飛呂くんが好きで、飛呂くんも、わたしが好きで、わたしたちは、恋人同士で。
「……」
少し止まって、ブレザーから携帯を取り出した。
「…朔ちゃん…」
メッセージを開いて、文字を打つ。
『今から、家に行ってもいいですか』
…なんとなく、突然家に行くことは躊躇われた。
わたしは、今までなんとも思わず部屋に行ったりしていたけど、もしかしたら、飛呂くんはそんなこと許してるわけじゃないのかもしれない。
…ふと、そういうことも浮かんでしまって。