逸らされた顔は、再びわたしの方に向けられた。

腕は緩められたまま、飛呂くんは少しずつ、少しずつ距離を縮める。


…きっと、わたしの気持ちを確認しているのだろう。


「…!」


ぱたりと下に落ちていた腕を、飛呂くんの背中に回すと、彼はびくりと小さく跳ねた。

だけど、それは一瞬で、彼も意を決したように、顔を傾けたまま、わたしの背中にするりと腕を伸ばしてきた。


そして、一瞬だけ、やわく、くちびるが重なる。


「…飛呂くん」

「もういっかい、したい」


2回目は、さっきより、少しだけ大胆に。


くちびるが触れる音と、お互いの息遣い以外、なにも聞こえてこない。

どうしてだろう。
雨はまだ、やんでないはずなのに。


「きみか、」

「…っ」


飛呂くんの「もういっかい」は、思ったより長くて。


長くて、長くて、何かを打ち消すように続いて。


ふたりの「初めて」を、夢中になって追いかけていた。