―――…
気が付いたら、約束の6時半を少し過ぎていた。
「ヒヨコ、いる?」
ガラリと教室のドアが開く音がして、その音の方を振り返ると、練習着姿の飛呂くんと高橋君の姿が。
ハンドボール部に所属している二人は、練習後はいつもいつも汗だくだ。
「飛呂くん、高橋くん、おつかれさま!」
高橋おつかれ!とニコニコしているアニカを横目に、わたしは鞄に入っていたタオルを飛呂くんに渡した。
「いーよ、汗臭いし、汚れる」
「平気だよ。拭いてすっきりして?」
「……ありがと」
わたしの右手からタオルを取って、そのまま、頭にクシャ、と乗っける。
少しだけ、するりと撫でるような動きは、飛呂くんなりの愛情表現なのかもしれない。
「…何笑ってんの」
「ふふ、なんでもない、えへへ」
「は?きもっ」
こんな毎日を送れるだけで、とてもとても幸せ。
「…今日も仲良しですね?お二人さん」
気が付いたら、アニカと高橋くんにニヤニヤ笑われていたけど。
そういうふたりだって、少しずつ距離を縮めていっていること、わたしは知ってる。
「飛呂ってば、部室で着替えもしないで、送れるから早く教室行くぞって言ってさ~。まったくどんだけ早く君花ちゃんに会いたいんだよっていう」
「高橋黙れ。ヒヨコ、ちょっと隣で着替えてくるから、あと5分待ってて」
「うん、待ってるよ」
飛呂くんの口の端が少しだけ上がった。
だけど、こうやって高橋くんに茶々を入れられても、少しも照れないし顔色も変わらない。
そういう男の子なんだ、飛呂くんは。