「―――――きみか」


「…!!」


朔ちゃんに背を向けた途端、呼ばれる名前。

優しい声で、いつも呼ぶ、聞き慣れた声。


「…なあに?」


振り向いて、声の主である朔ちゃんに問いかけるけど、


「んーん、君花じゃなくて、君花のカレシ」


首を横に振られて、わたしに用があって呼んだのではないことが分かる。



「………なんすか」


ようやく気づいた飛呂くんは、足をとめて、朔ちゃんの方を向いた。


朔ちゃんは、いつものわたしに向けるような優しい笑顔をつくる。

そして、飛呂くんに向けた。


「ヒヨコじゃなくて、君花、ね」

「…」



…朔ちゃん………?



「…名前くらい、知ってる」


えっ…? えっ…??


何故か張り詰める空気に、何も分かってないわたし。

なに、なにがあったの。

どうしてわざわざ朔ちゃんは、引き止めてまであんなこと言ったの。


なんで、飛呂くんは少し朔ちゃんに怒ってたの。


頭が混乱するうちに、わたしは飛呂くんに腕をとられて、そのまま屋上の方へと連れられていった。