「遅くなって、家で怒られたりしない?」



陸さんと店にいたのは、一時間もなかった、と思う。


一杯だけ、カクテルも飲んで。

お酒も初めてじゃないのに、まだ、暑くてドキドキしてる。


「大丈夫です」



ほんとは多分、あんまり大丈夫じゃない。



寄り道しないで、早く戻ってこい。
やらなければいけない修行は、山ほどあるんだから。



いつも、父さんに言われている。


だから僕は、部活も入ったことがないし、寄り道も、たまにしかしない。


吉田たちと遊ぶときには、前もって言っているから、もしかして、無断でこんなに遅くなったのは、初めてかも。



「…あんまり、大丈夫じゃなさそうだね」



思わずため息をついてしまったボクの顔を、少し屈んで覗き込んで、陸さんが言う。


少し困ったような、笑顔。



「ごめんね」



ボクは、首を横に振った。