「陸さん……兄、さん」


背中越しの、マコトの、声。
初めて、兄さんと呼ばれて、俺は声をあげそうになった。
あわてて、口を手で押さえる。


きつい、な。
マコトにとっては、俺はやっぱり、血を分けた兄なんだ。


分かっていたのに、こっちが、泣きそうになる。


兄でさえなければ、俺はもっと、マコトに優しくできた。
俺が兄であることに、マコトがあんなに傷つきさえしなければ。


俺がマコトを愛することは、マコトを壊してしまうこと、なんだ。
できるはずがない。
こんなに大切な、かわいい、愛しい者を、壊してしまうことなんか、できない。


だから。
さよなら、マコト。


「じゃあな。恨むなら、おせっかいな友達を恨めよ?」
「陸さん。……来週、ボク、体育祭があるんです。
よかったら、見に来てくれませんか?……ボク、強くなるから。
いつか、陸さんの重荷にならないで、一緒に歩けるように、もっと強くなるから」