マコトに、軽く手を振って、俺は病室のドアを閉めた。

笑っていることも、限界だった。

唇を噛んで、階段で下に降りる。

今はきっと、人に見せられるような顔じゃない。


マコト、本当に素直なんだよな。

俺の嘘を、素直に信じて。


卒業研究なんて、どうにでもなる。

大学院に進むためには、しっかりしたものを作らなければいけないのは、事実だけれど。

マコトに会う時間さえ作れないほど、切羽詰ってなんかない。


ほんとうは。

有希子、っていう子が来るとマコトから前日に聞いて、買ってきたドーナツだった。

マコトが命がけでかばった女の子。

会ってみたいとも思ったし、マコトと一緒に、慰めてあげようとさえ、思っていた。


マコトが生きてさえいてくれたら、それだけでいい。

そう思っていたはずだったのに。