あ、と、吉田がちょっと気まずそうな顔をする。


「ごめんな、マコト。助けてもらったのに」

「違うよ。来てほしいとか、そんなんじゃないんだ。ただ、きっと有希ちゃんにとっても、ショックだったと思うから。大丈夫かな、って心配で」


忘れてしまっていた、もう一人の、被害者。

幼い有希ちゃんにとっては、とても怖かったんじゃないかって、思う。

すぐに忘れられたならいいけど。

でも、たぶんそんなわけないって、ボクにはわかる。

ボクも、いつまでも、父親に殴られた記憶だけが悪夢のように残っていたから。


「うん、まだちょっと、外に出るたびに、道路をひどく怖がるんだ」


吉田が、シャープペンを置いて、真面目な顔をする。


「そう、なんだ」

「夜中に、突然泣き出すこともあるって、姉貴も困ってた。ほんとはさ、もっと早く、有希子を連れてきて、マコトの前で謝らせようと思ったんだけどさ」

「だめだよ、そんなかわいそうなこと、絶対ダメだからね」


謝らせるなんて、絶対ダメだよ。

有希ちゃんは、何にも悪くないのに。