えっと。
きっと、そんなことないと思う。
ボクだって、苦手な人とか、怖い人もいるし。
恨むほど、深くかかわった人が、いないだけなんだと、思う。

それに、どんな人にも仏様とおんなじ命がある、って、父さんに言われて育ったし。
仏様とおんなじ心を持っている人を、恨んだり、憎んだりしたら、仏様の御遣いなんて、できないし。

……ボク、普通だと思ってたけど、そうでもないのかな。

「憎んだことなんかない、って、言われたよ。
ずっと、憎まれていると思っていた。
復讐するために祐介に近づいたんだと思ったんだ」

「言っとくけど、俺の方が、マコトに近づいたんだからな。
俺が、マコトに一目惚れだったんだ。腹違いの兄弟なんて知ったのは、その後だった。
マコトは、あんたに言われるまで、あんたが父親だって知らなかったんだぞ」


一目惚れって…!
陸さん、今、お父さんにさらっと、とんでもないこと言ったよね?


「俺のことは、覚えていないのか」

「マコトから聞いた。あんたとの思い出は、壁に頭を叩きつけられたことだけさ。それも、ずっと今の父親にやられたことだと、思い込んでいた」

「……嫌なことだけを、覚えているんだな」