ボクは、時計を見た。
もうすぐ、父さんが帰ってくる時間。
陸さんの部屋には行ってみたいけど。
でも、そんなに毎日、遅くまで出かけていられない。
父さんに怒られるのも嫌だけど。
それより、なんだか仏様を裏切っているみたいで、嫌だ。
きっと、仏様は、ボクのことなんか、全部お見通しだと思う。
小さい頃から、お寺で育ってきたから、大切にしなきゃいけないって、尊いものなんだって、信じてる。
だから、仏様の御遣いが、ボクなんかにできるのか、不安なんだ。
「ボク、今日はこのままうちにいます」
「……そっか」
「父さん、もうすぐ帰ってくるし、境内の掃除、さぼっちゃったばっかりだし」
「掃除?」
陸さんが、境内を見回す。
「……こんな広いところ、ひとりで?」
「修行だから。でも朝は、父さんも一緒にやるんですよ」
「手伝おうか?」
「え?いいですよ。そんな」
「俺も、ちょっと修行したほうがいいかもしれないしさ」
陸さんが、そう言って、笑う。
いいのかな。
それは、陸さんと一緒にいられるなら、ボクは嬉しいけど。
でも、それじゃ、修行にならないような気がする。
でも。