ーーでも……やっぱり……。




「開けて、よ」



開けて、ここを開けてよ。



「カイト、いるんでしょ……?」



いい子なフリをしようとした。

何度も何度も。


カイトは違う。

カイトは海斗じゃない。

だから寂しいなんて感情も、ぐっと握りつぶされるような胸の痛みも、涙が出そうなほど暖かい温もりも。


そんなものを感じるのも間違ってる……そう思ってた。


「……カイトは、ズルい」


そうだ、カイトはズルい。


私にだけ忘れられない記憶を焼き付けておいて、自分は簡単に忘れちゃうなんて。

そんなのズルい。


カイトの事なんて知らなければよかった。

カイトが私の事忘れてしまうのなら、私だってカイトの事忘れてしまいたい。


だって悔しいじゃない。


私だけがカイトの事を覚えてるなんて。

不公平じゃない。


私だけがこんなにカイトの事を考えてるなんて。


こんな世界での出来事なんて、すっかり忘れてしまいたい。

私は大した事なんて出来なくて、魔法なんて使えなくて、怪我だってした事が無いような、そんな女の子。


なのに他の世界は私にとってとても残酷だった。


辛い事ばかりだった。


だから、カイトが忘れてしまうというのなら、私だって全てを忘れてしまいたい……。