「夕壺様、僧がお着きになりましたっ」

「早く見てくれっ!!桜の宮が大変なんだっ」
ママ…僕寂しいよ…。
「はぁ、はぁ、はぁ…」

僧は桜の宮の頬に手を当てた。

「子供は双子の様ですねぇ…。さっきお産まれになりました子は、腹の中で通常に育ったんですが…」

僧は、時間をおいて言った。

「もう一人の子は死んでしまった様で…片方の子は育ったのに自分は死んだと言う憎しみから、物の怪になった様ですね…」

「何とか出来ないのか!!」

「もう、どうすることも…」

「そんな!!桜の宮っ…」

夕壺は、桜の宮を揺すった。

「桜の宮ぁっ!!」

「夕壺様…」

桜の宮は、そっと手を差し出した。

「桜の宮っ」

夕壺は、その手をしっかりと強く握った。

「夕壺様に愛されて、桜の宮は幸せでございました。夕壺様との子供を産めて、幸せでございました。」

「駄目だっ…桜の宮っ」

「桜の宮は誰が何と言おうと、この世で一番幸せでございました。」

最後に、物の怪になった子供が桜の宮の首に手をかけた。

「大丈夫よ…。ママが傍に居てあげるから…」

桜の宮は、夕壺の手をぎゅっと握り、固く目を閉じた。

ママ…ありがとう。僕は一人じゃないね…ママ。

「桜の宮ぁぁー!!」

なぁ、桜の宮…。

君に愛されて、僕は幸せだった。

笑うか?

君が僕の初恋だった。