小さなつぶやきだったけど、愛にはちゃんと聞こえていた。
愛は、ポーカーフェイスのまま何かを考えているようで、しばらく黙り込んでいたけど口を開いた。






「……俺、姉さんには冷たくできないから言うけど……トウくんって妖精なんでしょ?……妖精って、本当は人混みに出ちゃダメなんだよ。」





「…そう、なの?」





「…そう。時間がきたら、トウくんからちゃんと話してくれるんじゃないかな?それまでは、俺は黙っていようと思ってただけだよ。」






その言葉を聞いて、あたしは納得した。


……そっか。
愛は妖精とかも見えるから、妖精のしきたりとかもある程度知っているんだろう。



妖精は本当は人混みに出ては危険だけど、トウがそれをあたしに言わなかったから、愛は自分から言わない方が良いだろうと判断したのか……
そう結論付けると、ちょっとスッキリした。







「そっか、そういうことか〜…じゃあ、お礼言っとかないとね!」





「…そうだね。本当は言わなくても良いと思うけど、言った方が良いと思う。」






弟の矛盾発言を聞きながら笑い合い、家に帰りつく頃にはさっきの寂しさはなくなっていた。





だけど、あたしは知らなかった。




トウや愛が、あたしに対して『まだ言っていないこと』があること。
それこそが、本当の意味での真実だということを。





それをあたしが知るのは、2年後の夏。