意識をしっかりと愛の話に戻すと、愛はため息をついた。
「…こんなこと、言いたくないけどさ…トウくんにはちゃんとお礼、言った方が良いよ。本当はトウくんは人混みに出ては危険なのに、姉さんのために来てくれてたんだよ。」
「え…?」
人混みに出ては危険…?
それってどういうこと…?
あたしは、聞かずにはいられなかった。
「ねぇ、愛、それってどういう……」
「姉さんは、まだ知らなくても良いことなんだよ。」
そう言う弟の目は大人びているように見えて…声が冷たく感じて…
目には見えない壁を感じた。
それでも弟の手は、あたしの手を離すことはなくて…まるであたしがどこかへ行かないように、捕まえているかのように。
それでも、あたしには教えてくれない。
それに寂しさを覚えて、お祭りの賑わいや、蝉の声にかき消されてしまいそうな…小さな声がポツリとこぼれた。
「……あたしだけ、知らないってこと…?」