コンコンコン………
ふと一年前のことを思い返していると、あたしのドアをノックする音が聞こえた。
あたしが返事をする前に、ノックの主は勝手にドアを開けてきた。
見知った顔が、ヒョコっとドアの隙間からのぞく。
それはあたしの弟、愛(あい)だった。
「姉さん、今日の夕飯……………トウくん、またいるの?」
あたしの部屋でくつろぐトウの姿を見つけた愛の表情は、全く変わらない。
だけど、少しだけ声のトーンが下がる。
機嫌が悪くなった。
弟の愛は、あたしの1つ年下の弟。
常にポーカーフェイスで冷静沈着。
声のトーンや視線でだいたいの機嫌はわかるけど、親しくないとわかりにくい変化かもしれない。
実は、愛はトウのことをあまり良く思っていない。
トウのことを、冷ややかな目で見ていることが多い。
でも、トウはそんな愛の態度に対して全く気にしてない様子。
むしろ、トウは愛のことが好きみたい。
あたしが過去を振り返っている間は、トウは自ら持参した雑誌を見ていたらしい。
…どうりで静かだと思った。
開いていた雑誌を閉じて、トウは元気よく愛に向かって手を降った。
明るいトウの笑顔が、愛に向けられる。
「愛くーん!こんにちはー!今日もカッコイイねー☆元気にしてた?」
「………。」
それでも、愛が微笑み返すことはなかった。
いつものポーカーフェイスのままトウを冷ややかな目で見ている。
シカトを決め込んだらしい。
でもトウはめげない。
本当にめげない。