彼は困ったように両手で顔をおおった。
何か本当に困惑しているみたい。
それから、しばらく沈黙が続いた。
急に黙り込んでしまったから、あたしも困ってるんだけど。
……というか、さっさと帰ってほしい。
とりあえず、話しかけてみよう。
そろそろ、清掃しなきゃだし。
「……?あの………」
その瞬間、トウは顔をおおっていた両手をバッと離した。
「ぎゃっ!!!!」
手が離れる時のあまりの勢いの良さに、ビックリして大声をあげてしまった。
トウの鼻は、手のひらで押さえつけすぎたのか赤くなっていた。
その目は、なぜかものすごくキラキラしている……。
「俺、ひらめいたよ!」
「な…なにを……?」
「俺、君と一緒にいる!そしていつか、俺のことを好きになってもらいたい!!!!」
「…………え?」
彼は大声で言い切った。
さっきの間に、彼に何があったのか…検討もつかない。
…というか、好きになってもらいたいって何が??
「…あ、あの……?」
あたしが話しかけているにも関わらず、トウは自己完結したのかすごく満足げな顔をしていた。
そして、待ちきれないかのようにソワソワしだした。
「そうと決まれば準備しなくちゃね!じゃ、俺はこれで。またね、悠ちゃん!!」
「は、はぁ…?」
そこまで言うと、彼は蒸気のようにスッと消えていった。
そして……彼が消えた後、我が銭湯はまだ清掃していないのにキレイになっていた。