「なぁに」
永原真央の妹は、アタシを
じっと見つめる。
「生きてて楽しい?」
何て質問を小学生にしてるんだろう。
「・・・楽しいよ?おかーさんとおとーさんは居ないけど、おねーちゃんがいるもん!」
生きてての意味は分からなかったのか、
楽しいか楽しくないかで返事が来た。
この子はアタシよりも幸せだ。
アタシがこの子くらいの時は、
そんな笑顔誰にも見せれなかった。
「おうち来て」
「・・・」
遊ぼうとスカートを引っ張ってきた。
アタシは無言で永原真央の家に入った。
二人暮らしなだけあって、
玄関と距離の無いキッチン。
扉を開けると、1つだけの部屋。
「おなまえは?」
「桜井亜紀」
「亜紀ねーちゃん」
「アタシの事・・・怖くないの?」
アタシは金髪に近い髪色でロングヘアー。
他は、奈々達と違って派手じゃないけど
子供は普通怖がるはず。
「やさしいもん」
「は?」
「名前教えてくれた」
アタシはつい吹き出した。
素で笑ったのは何年振りだろう。
「名前教えてくれたからって、優しいとは限らないぞ」
微妙に微笑みながら、
彼女の頭を撫でた。
すると、このアパートの階段を
誰かが登ってくる足音がした。
「きた」
永原真央の妹は、不安そうな顔をして
アタシに抱きついた。
「来たって・・・誰が?」
「こわいおじさん」
いきなり、玄関のドアの外から
怒鳴り声が聞こえた。
「永原ぁーっ!!金返せや!」
数人がドアを蹴る激しい音が聞こえる。
「亜紀ねーちゃん」
「金返せって・・・」
「おとーさんとおかーさんがお金借りたの」
カギを閉めてなかったドアが開かれた。
「見ない顔だな、永原の娘のダチか」
「ダチじゃねーよ」
アタシは立ち上がった。
「あんたは押し入れ入ってな」
永原真央の妹は、押し入れに入った。
アタシは借金取りと殴り合いになった。
「ガキのくせに・・・逃げるぞ!」
おっさん達は見た目より弱くて、
子分らしき奴は半泣きだった。
「帰った・・・?」
「もう大丈夫。怖かったか?」
「うん」
改めて考えると、アタシが
永原真央の家にいなかったら
この子はどうなってたんだろう。
「亜紀ねーちゃん、ありがとう」
「・・・飯、どうするの?」
「おねーちゃんが作ったのあるよ」
日は暮れていた。
永原真央の妹がキッチンに行くのを
見ていると、ケータイが鳴った。
「誰だよ・・・」
画面を見ると、門倉奈々の
名前が表示されていた。
「奈々・・・どうかした?」
「亜紀ー、永原真央があいつに似てんだってー?」
「沙織から聞いたのか」
「似てるのがいるって聞いたら、ムカついてさ。仲間に入れるつもり?」
「いや・・・ただちょっと会話しただけ」
奈々は電話越しに笑っている。
その笑い声を恐ろしく感じた。
「今どこにいんの?奈々、今日帰るとこ無いんだよね」
「また喧嘩したの?」
「うん。義理の親だからってさ・・・」
「親がいるだけ、良いじゃん」
「・・・少ししたら、亜紀の家行く」
一方的に電話は切れた。