家族全員参加での応援合戦が始まった。

合い言葉は勿論"甲子園"

期待に応えようと張り切るナイン。
いつの間にか学校全体を巻き込む一大プロジェクトに変貌していた。


吹奏楽部は校歌の練習。
俄か結成のバトントワリングも始まる。


甲子園出場のための地方予選の始まる前に、ソフトテニスインターハイの地方予選は始まる。
美紀にとって苦い経験になった敗北は、この応援をしたいがための結論だったのだ。


本選に出場したら、完全に球場へ行けなくなってしまうからだ。
でも、それは美紀の言い訳。
本当は力不足だと自分自身では納得していた。


高校総体後は野球やサッカーたど一部の部活を除いて殆どの三年生が引退する。

スポーツ校の本領発揮の舞台がすぐそこに来ていた。




 正樹は校長先生に何故三つ子がと双子になったのか。

何故子供達が美紀のことを大切にしたいのかを打ち明けた。

全ては優しさから出たと気付いた校長先生は、この恋のバトルを見守ることを約束してくれた。

そしてとうとう地方予選の最終戦の日が訪れていた。




 長尾家のキッチンは朝から大賑わいだった。

三畳程の広さの中に、男女三人。

狭い狭い。
冷蔵庫に食器棚に流し台。
全部その中に入っているから、ギュウギュウだった。


手伝う約束で其処にいる秀樹と直樹。
それなのに……
此処ぞとばかりに邪魔をする。


美紀は朝早くからお弁当作りに精を出していた。

実は、その味見がしたくて集まって来たのだった。


「おっ、唐揚げ。うまそー!」
秀樹がつまみ食いをする。

それを笑いながら見ている美紀。


「兄貴だめだよ。おかずが無くなるよ」
そう言いながら直樹も手を出す。


(――もう、全く子供なんだから)

美紀は母親にでもなったような心持ちだった。


(――何時か本当の親になりたい。

――この兄弟達から母親だと認められたい。

――パパのお嫁さんになりたい)




 美紀は自分が養女だと知った時、本当は嬉しくて嬉しくて仕方なかった。

子供の頃からの夢が叶うかも知れないと思ったからだった。


それは勿論パパのお嫁さん。

だから美紀は珠希の真似をするのだ。

インターハイの時同様に、キッチンに立つ美紀の邪魔……、
お手伝いをするのだ。