秀樹は真のエースを目指して頑張っていた。


秀樹は新コーチの指導の元でスクスク育っていったのだった。




 コーチは秀樹を高くかっていた。
でも、お調子者の秀樹にそのことは言わなかった。

全て女房役の直樹に任せていた。


双子だから。
と、ツーカーの部分に賭けたのだった。


カーブ、シュート、スライダーも一応はマスターしていた。

でも秀樹はもうそれを使おうとは思わなかった。

豪速球が生かされるのはやはりストレートだと確信していたからだった。


『正しいフォームで投げてこそ、コントロール出来るんだ』
コーチが常に言っていた。
その通りだと素直に思う。

秀樹はそれだけ成長したと言える。


秀樹は目を閉じた。
直樹の構えるキャッチャーミットを意識するために。


(――リラックスして振りかぶる。

――片足をゆっくりと上げる。

――軸足の延長戦上に頭を乗せるように立つ。

――腰からホームに向けて前方移動させといく。

――ステップしてバックスイングに入る。

――この時、ボールを握っている手の甲を三塁側に向けるような感じで上げていく。

――肩のラインをグランドと水平に保ち、引っ張るようにスイングに入る。

――両肩がホームに対して正面を向くようにリリースする。

――同時に軸足は、ピッチャープレートを強く蹴る。

――肩がグランドに向くように腕をスイングして、フォロースルーへと移行するか……)


秀樹は目を開け、迷わずに直樹に直球を投げた。


「ナイスピッチング!!」
直樹の声が聞こえる。
秀樹はその時、真のエースになりたいと本気で思っていた。




 正樹は時間の許す限り、智恵の親探しに没頭した。

あちこちの図書館に行っては、古い新聞を読みあさった。

何とか手掛かりを得ようと必至だったのだ。




ある日正樹は東京駅構内にいた。
智恵が放置され、保護されたコインロッカーは、この駅にあったのだ。

数多くのコインロッカーが、所狭しと設置してある。

当たり前の様に使用する若者達。
もしこの中に乳幼児を捨てようとしている者があったら?そう考えると背筋が寒くなる。

暗闇の中で母を求めて必死に泣き叫んだであろう智恵が哀れでならなかった。