でも本当は……
美紀を見てドキドキしている自分のためだった。

いわゆる照れ隠しだったのだ。


「今起きようとしていたのに」
秀樹はぶつぶつ言いながらやっと体を起こした。
目覚まし時計を見ると、まだ鳴っていなかった。


「な……何なんだよ親父?」
それだけ言うのがやっとだった。

秀樹はまだ訳が分からずきょとんとしていた。


「何が、朝練だから、何時もより三十分早く起こせだ」
正樹は秀樹を一括した。


それでもまだ秀樹はポカーンとしていた。


「あっ、そうだった!」

秀樹はやっとことの成り行きに気が付いて、慌てて飛び起きた。


「やべー。目覚ましそのままだった!」

秀樹は急いで直樹を起こそうと二段ベッドのハシゴをよじ登った。


「アホ。もうとっくに起きてるわ」
すかさず言う正樹。


それでも秀樹は、その場にいた。

突然の正樹の襲来に、心が動揺したままだった。


「脅かし過ぎたか?」


「当たり前だよ親父……」

秀樹は頭を掻きながら、正樹の後を追うようにカウンターの席に着いた。




 東向きの玄関の前には階段。
風水好きな珠希の妹・有田沙耶(ありたさや)は、この物件の購入を辞めさせようとしていた。


中古住宅。
オマケに鬼門の玄関。唯一の救いは東から入ること。
一番に朝日を浴びられるので、理想的とされていた。

その玄関に直面した階段。
これも凶相だと言う。

対処法は、少しだけでも隠すこと。
のれんでも効果があると言った。


そんな忠告を無視して此処を選んだ理由は、正樹のトレーニングが可能なスペースがあったからだった。

おまけに寝室横に八畳程あるルーフバルコニーがあった。
それが一番の魅力だった。


其処からは、地元で開催される花火大会が見えた。
それが家族を癒やしてくれる。
珠希はそう思っていた。


それにこの場所は高校時代二人が良く通っていた無料のスポーツジムのすぐ傍だったのだ。