正樹は思い出していた。

珠希の希望でリフォームされた対面式キッチンの、入り口に掛かるレース調の長のれん越しに見えた美紀を……

朝日を浴びながら甲斐甲斐しく家事をこなすそのシルエットに、正樹は思わず息を呑んだ。


(――珠希!?)

ドキッとした。

美紀が急に大人びて見えたからだった。


(――えっー、あー美紀か……。何時の間にそっくりになったのだろう?)

正樹は感慨深げに美紀を見つめた。


(――そうだ。あの時以来俺は……

――俺の中に美紀が住み着いたんだ。

――いや、違う。珠希を忘れられない俺が、美紀を住まわせてしまったのだ)




 あの朝確かに珠希を美紀に感じた。
初恋の女性・智恵を感じて戸惑った。


『大きくなったらパパのお嫁さんになる』 
確かに美紀は何時も言っていた。

その言葉が今確実に、正樹の心の中で大きくなり埋め尽くそうとしていた。


沙耶に指摘されて、より感じる愛しさ。


正樹は自分の心の置き場を探し始めていた。


正樹はもがいた。
幾ら何でも、息子と同じ年の美紀は愛せない。
愛してはいけない。


でも正樹は感じていた。
既に美紀を一人の女性として見ている自分自身を。


このままではいけない。

美紀に本当のことを話そう。

秀樹と直樹とそして自分自身のために。

正樹はそう決意した。