妙によそよそしい秀樹と直樹。
正樹は渇を入れようとリングの上に二人を立たせた。

ここは正樹の職場だった。

プロレスラーとしてのセンスを高くかってくれていたオーナーが、セコンドとして雇ってくれたのだ。


小型バスを運転出来る。
それが条件だった。
でもそのためには克服しなければならないトラウマがあった。

どうしても感じる凶器としての車。
珠希の命を奪ったことへの恐怖心。

それは未だに解決したわけではない。
それでも一歩踏み出すために、正樹は心に鞭を打った。

自分のやる気が子供達を励まし、元気に繋がる。
その事実に気付いて。


セコンドとは試合の際に出場選手の世話役だ。
インターバル時に作戦を伝授したり、汗を拭いたり、傷の手当てなどをして選手に闘い易い場を提供する仕事だ。

又選手の体調などが悪くなった場合には、タオルを投げて試合を強制的に終わらせる権限を持っている。


正樹は珠希の手解きを受けていたのでスポーツマッサージも出来る。

セコンドにはうってつけだったのだ。




 「よし! パパにかかって来い」
秀樹と直樹は顔を見合わせた。
いくら元プロレスラーだったとしても、現役の高校球児相手に勝てるはずはなかった。


「いいから来い!」
それでも正樹は両手を広げた。

秀樹と直樹は子供のように正樹の胸に飛び込んで行った。

正樹は小さな体で、大きな二人を受け止めた。


「どうした? 美紀が本当の兄弟じゃないと知って、好きになったか?」
ズバリと聞く正樹。
頷く二人。


「辛いな」
正樹は二人を抱き締めながら泣いていた。


沙耶が、一度断ったお見合い話を再び勧めるために訪問したあの日。
正樹は改めて美紀の存在の大きさを知らされた。

自分のために甲斐甲斐しく働く美紀を、正樹も愛おしく思っていたのだ。