「何があったのか知らないけど。美紀ちゃんが関係しているんじゃない?」
ズバリと沙耶は言う。
正樹は慌てて首を振った。


「そう言えば美紀ちゃんのお母さんの結城智恵さんって、確かお義兄さんの初恋の人だったでしょう?」


信じられない沙耶の言葉に秀樹は思わず身を乗り出していた。


「分かった。美紀ちゃんね。あの子と結婚する気ね。そう言えばいつもパパのお嫁さんになるって言っていたし」

秀樹が聞いているとも知らず、沙耶は美紀の真実を語っている。


(――そうだよ。確かに小さい時から美紀は、『パパのお嫁さんになる』って言っていたんだ……)




 「やめて下さい。そんな事考えたこともない」
正樹は頭を振った。


「いいえ、きっとそう。いくら血が繋がってないと言ってもねー。実は私本当は、美紀ちゃんはあなたの本当の子供じゃないかと疑ってるのよ!」
沙耶は興奮していた。


「違います!」
思わず声を荒げる正樹。


(――ここしかない!)

秀樹は何も聞いてない振りをして、車をノックした。


「お、秀樹か」
正樹は車のドアを開けた。
秀樹は助け舟になれたようだった。


「すいません。実は今日は誕生日なんです」
正樹は沙耶に会釈して車を降りた。


「えっ!誕生日って、もしかしたらママの?」


「ん、お前知らなかったのか?」
正樹は笑った。
沙耶も気付いていなかったようで、車から降り早足で帰って行った。




 「今日がママの誕生日だったなんて……。あ、そうかだから唐揚げなのか? 俺何も気付かなかった。美紀が唐揚げを作る時は、大事な行事があるんだよね。知っていながら……」

秀樹はすすり泣いていた。


「そんなに攻めるなよ。パパだって沙耶さんとの話し合い。ってことでも誉められたらもんじゃないよ。きっと美紀が頭から角を出してる」

正樹は頭の上に指を立ててお道化た。


「夕飯は唐揚げか。何か美紀らしいな〜」


正樹は珠希に手解きを受けている美紀の姿を思い出していた。


「さっき、つまみ食いしたら起こられた」
シュンとして秀樹が言う。

「当たり前だ。この食いしん坊」
正樹の軽く頭を小突く。


「今日がママの誕生日だという事忘れていた。悪い子だね」

秀樹は正樹の胸に頭を付けて泣いていた。