秀樹はご馳走が気になり、さっきから台所をウロウロしていた。

「え、パパ遅くなるの?」
美紀の受け答えを聞いてガッカリしながらラップを開けて見る。


「秀ニイ! 全く油断も隙もない」

秀樹はとうとう、美紀の怒りをかって其処から追い出されてしまったのだった。

秀樹のつまみ食いを見逃す余裕さえもない。

何時もの寛大は母心に似たゆとりさえ無くしていたのだ。

美紀はそれほどガッカリしていた。


美紀はその後へなへなと座り込んでいた。

秀樹と同じようにローテーブルのご馳走を覗く。


(――どうしてなんだろう? 何でママから教えられた料理だけなんだろう?)

美紀は自分の行動が不思議でならなかった。




 忙しい朝はキッチンカウンターでの食事。
でも夕食はローテーブルでのんびり会話を楽しみながら。
それが浅尾家のライフスタイルだった。

そのローテーブルは昔のちゃぶ台のように折りたたみ式になっていた。

必要な時に出して、トレーニングの時は片付ける。

小さい時は勉強机やお絵かき台にもなった。
珠希は本当にアイデアが豊富な人だった。


それらを継続していること。

家族を一番大切に思っていること。


美紀は自分がどんどん珠希に近づいているように思えてならなかった。




 やっぱりご馳走が気になるらしく、階段の下部から台所を見ていた秀樹。


(――パパ早く帰って来てよ。美紀が可哀想だよ)

自分のことは棚に上げ、玄関に目をやった。
玄関の外がやけに明るかった。


(――何だろう?)

秀樹は少し玄関を開けてみる。


目を凝らして良く見ると、家の前の道には正樹の車が止まっていた。


秀樹は不思議に思い、そっと家を抜け出した。

遅くなると電話をしてきた正樹が家の前にいる。
お腹を空かした秀樹は、正樹に早く家に入って欲しかったのだ。

木の陰から様子を伺った。


もしかしたら車の中で倒れているのかも知れない。

心配かけたくないから車の中で休んでいるのか?

秀樹はあれこれ考えあぐねていた。