珠希と一緒にいることだけで正樹は成長する。

正樹は珠希に夢中になった。

初恋の人の結城智恵を忘れた訳ではない。


『私の出身地はコインロッカー』
その言葉で意識した。
恋しいと思った。

だから力を付けたいと願った。
それは本当は、智恵を守るためだったのだ。


それでも正樹は珠希の人柄に惹かれた。

二人でプロレスラーになる夢を追い掛けてみたくなったのだ。

珠希の真剣な思いは確かに正樹に届いたのだった。




 珠希が正樹に柔道を勧めた訳は受け身だけではなかった。

人伝いに聞いた柔道整復士の資格があったのだ。

正樹にこの資格を取らせたかっのだ。


それは接骨医にこの資格の方が多いと聞いたからだった。

勿論、柔道をやってさえいれば取れる訳ではない。

でもきっと、マッサージが出来ればプロレスラーへの足掛かりになると信じたからだった。


初めは練習生だろう。
でもそれすら難しいのかもしれない。

でもその資格があれば可能かもしれないと思っていたのだった。


長い道のりになると判っていた。
だけど珠希は正樹の力になりたかったのだ。




 でも、其処も学費は高かった。


基礎柔道整復学。
臨床傷柔道復学。
柔道整復学実技。
臨床実習。
臨床実技。

専門。

解剖学。
生理学。

運動学。
衛生学。
公衆衛生学。
臨床医学。
外科学。
整形外科医学。
臨床医学。

スポーツ科学。
生命科学。


それらの全てを勉強しなくてはならない。

珠希は悩んだ。
その資金を如何に貯めようかと。
そして珠希は決断する。
自分がその資格を取り、正樹を癒そうと……


珠希は正樹を応援したくて、中学の体育教師の道を模索していた。
偶々その学校では、スポーツマッサージの学科も用意されていたのだ。


珠希の覚えた技術を正樹に伝授すれば、プロレスラーの養成所で重宝がられるかも知れないと思ったのだ。

プロになるのが一番だと解っている。

でも、二人にはお金が無かったのだ。