そんな正樹に一目惚れした珠希。

珠希は正樹の中に、懐かしい人の面影を見ていた。


それは沙耶を保育園にお迎えに行った日。
四の字固めを教えて貰った正樹の父親だった。


カァーッと胸の奥が熱くなる。
珠希は本気で、正樹の父親に恋をしていたのだ。

だから瓜二つの正樹に目を奪われたのだ。

それは珠希の長年の夢が叶った瞬間だった。


正樹の父親が、亡くなったことは風の噂で聞いていた。
だからもう会えないと思い悲しんでたのだ。

それでも会いたかった。
会いたくて会いたくて仕方なかった。

正樹の父親は珠希の初恋の人だったのだ。




 目の前にいる正樹が、初恋の人でないことは解っていた。

それでも珠希は恋に落ちた。

悲しんできた分だけ思いが募る。
珠希はあの恋が、本当はこの瞬間に向けられたのだと思い込んだ。

だから舞い上がって、正樹の全てを受け入れたくなったのだ。

そして出逢えるきっかけになった、プロレスラーになる夢を二人で追い掛けようとしたのだった。




 何もかもかなぐり捨てて、正樹のためだけに奔走する。
幸い、軟式テニス部はインターハイ後に引退することは決まっていた。
後輩に部活を任せて、卒業の準備をするためだった。


野球やサッカーやラグビーなど冬まで続く部活もあるが、軟式テニス部は通常通りだったのだ。

それは、就活や受験勉強などに充てるためだった。


珠希にも、未来を決めなくてはいけない進路選択の日々が其処まで来ていたのだった。




 正樹は悩みを珠希に受け開けた。

将来の夢は勿論プロレスラーだ。だけど身体を鍛える方法が解らない。そう告白したのだ。


正樹の練習をサポートしたいと珠希は考えた。

何とか筋トレだけはさせたかったのだ。


珠希が思い付いたのは、偶に利用していた壁打ちテニスの出来るスポーツ公園だった。

市内に何ヵ所か設置されている大型公園だ。
コンクリートにテニスコートのラインや野球のストライクゾーン、サッカーゴールなとがペイントされていた。


広い運動スペース。
その近くには、腹筋などを鍛えるられる遊具が備え付けられていた。