好きなもんは好き。






「きょーへー。帰ろ〜。」



「ん。じゃな、武(たけし)。」



「また、舞香ちゃんと帰るのかよ!?」



「…悪い?」



「いや、別に、悪くはないけど…、ぶふっ!そっか、恭平そうだもんな!」



「おま!ふざけんなよ!?」





不思議そうな不審そうな顔をしてた町田くんがいきなり吹き出して笑い出したかと思えば、




隣にやって来た恭平がいつの間にか焦った少し赤い顔で町田くんに怒鳴る。





と、同時にあたしも軽く耳を塞ぐ。






いや、突然隣で叫ばないでくれますかね!?





はやく帰りたいのになんか町田くんと言い合い始まるし…。





あたしが恭平と帰るのってやっぱり、そんなおかしいのかな?





紫乃も意味不明なこと言ってたし。





なんだろ、あたしの理解力が無いだけ?





「お前な、舞香ちゃんが鈍いからいいものの!」



「普通、鈍いっていうか!?本人の前で!?」



「え、あたしって鈍いの!?」



「うるせえ、舞香は入ってくるな!」





え、なんかそれ不公平じゃない!?





つい答えればあたしにまで当たってくる恭平に少し顔をしかめる。




ていうか、もう帰りたいんですけど!!


















「ねえ、恭平。あたし、帰るね。」






言い合いが続きそうだったからひらひら手を振って教室のドアから出る。






今日は、家に着いたらためてたドラマでも見ようかな〜…。






「あ、待て舞香!」






はい、後ろでうるさい犬の声がしたけど無視〜。






大体置いてくと鬼の形相で恭平追いかけてくるから、






こういう場合は、逃げるしかないんだよね!!






いや、逃げたら完璧状況悪化なんだけどね!!







だったら逃げんなよ、って話なんだけどいや、早く帰りたいじゃん?





てことは恭平置いてかなくちゃいけないじゃん?





でも、置いてったら恭平怖いじゃん?





逃げるじゃん?





いや、完璧悪循環しかないんだけどさ。






よし、走り出す準備OK。ここは1年生の教室だから1階だもんね。





「3、2、1、スタート!!」





なんて自分で言って走り出す。





「おい、舞香!?」





うーん、どうやら後ろの足音的にこれは恭平もすぐに走ったね☆





すぐに捕まるね☆






昇降口までにげろおおおお!

















「舞香!おい、待て!」







案の定、あたしの全力走りも虚しく下駄箱までもう少し、というところでパシッと腕を掴まれて恭平に捕まった。






やばい、後ろ向けない。怖い、これあたしの命どうなる?






なんて思ってギギギギギ…と音がなりそうなくらい恐る恐る振り向くと、







漫画とかでよく見るような怒りマークが頭に5個くらいついた目の笑っていない恭平さんがいました…。







「置いていくっていい度胸してるよな、舞香?」




「…ご、ごめんなさい…。」








こ、こういう時は素直に謝ったほうがいいよね!うん。






反抗したらどうなるか、なんて分かりきってるから。






「はい、罰としてプリンおごりな。」




「…はい?恭平さん、ごめんごめんごめん、聞こえなかったわ、もう一回。」





「プリン舞香がおごりな。」







そうですよね昔からプリン恭平さん大好きですものね、はは。





え、で?プリンがどうしたって?あたしにおごれと?





たかが教室から置いてっただけで?金欠のあたしに?おごれと?






はん?いい度胸してるじゃねえか兄ちゃんよぉ。







「お、ご、る、よ、な、?」









「……………………………………はい。」










言い返そうとした度胸なんて何それ、恭平の目見た瞬間恐怖でマンホールの下に沈めました。







ひどい、鬼畜すぎる!!!

















まあ、結局?






あの入学式の後は、あたしが少し大人になって(恭平に逆らえなくて)、プリンを奢ったんだけど。







つーか、プッチンプリンとかじゃなくて高い一つ売りの焼きプリン選ぶとか鬼畜すぎない!?








まあそんな話は置いといて。






入学式から約2週間程。








段々クラスにも馴染めてきて、友達も増えてきた今日この頃。








…舞香、人生で3番目くらいに緊張してます!







「1-A、一ノ瀬優紀(いちのせ ゆうき)です。学年代表をやらせていただきます。図書委員としての自分の仕事を責任持ってやりたいと思うのでどうかよろしくお願いします。」





一ノ瀬くんが頭を下げたと同時に、拍手が飛び交う。






そう、今は委員会の話し合い&初顔合わせ。






委員会もこの前決まったばっかりで、他のクラスの誰がどの委員会か、なんて分からずに、






とりあえずこう見えてあたし本好きなんだよね〜って、選んだ図書委員。








それがね、まさかの。A組のイケメンさん、一ノ瀬さんと同じだったんです!






え、何これ嬉しい。





と、思ったのもつかの間、






「こ、小篠舞香です。学年副代表なんて、大役はっきり言ってあたしなんかで大丈夫かな、という感じですけど、精一杯頑張りたいと、思います。よ、よろしくお願いします!」






何故か学年副代表になっちゃったあたし。







図書室のカウンター付近で、一ノ瀬くんの隣に立って挨拶するだけで緊張で汗びっしょりって…。






おい、あたし、これから大丈夫か…?














クラスで男女1人ずつ選ぶ図書委員。





図書委員に女子に立候補したのはあたしだけだったから即、決まって。






男の子は誰かな〜なんてワクワクしてたら恭平が手挙げるもんだからあの時は目、飛び出るかと思ったよね。






いや、あなたさっき体育委員とか放送委員がいいみたいなこといってましたよね!?






まあ結局じゃんけんで眼鏡をかけた真面目そうな小河くんになったから一安心。







恭平が図書委員なんかになったら平和に仕事できないし、なんなら図書委員女子の座も奪われてしまう。






まあ恭平と必然的に紫乃と分かれたあたしは同じ中学の人がいないこの空間に少しドキドキだけど、






副代表として頑張らなくては!!

















「じゃあこれで解散ね。各学年の代表と副代表はちょっとここに集まってくれるかしら。」






先生の解散と言う言葉に一度プツンと切れた緊張の糸がまた一瞬にしてピンッと張る。






もう焦りすぎて初顔合わせして挨拶した以外ほとんど記憶にないんですけど…、あたし。







何の話だろう…なんて思って首を少しだけ傾げながら先生に指示されたとおり机の周りに集まる。






「これからカウンター当番とか色々やってもらうけど、代表と副代表は基本セットだからよろしくね。これ日程表。普通はクラスごとだけど代表と副代表は2人で当番ね。それ以外にも特別な仕事があるから心得ておくように。」





え、ちょっと待って。ちょっと待って。言葉のスピード早すぎてなんか理解出来てない気がするよ、あたし。





スラスラ言って日程表をそれぞれ学年人数分配り出した先生の話を理解しようと試みる。





えっととりあえず整理しようか。この話の要点、とは。





つまりあれでしょ、基本代表と副代表はセットってことでしょ?





え、あれ、つまり一ノ瀬くんとあたしが基本セット…?





ん?誰か助けを頂戴。あれ、理解出来てるの?あたしこれ。





え、なんかそれあたし申し訳ないんだけど。いいの?そんなの?全校の女子が泣かない?







「よろしくね、小篠さん。」






爽やかな柔らかい声に誘われて右を見ると優しく笑う一ノ瀬くんの笑顔がありました…。






こ、小篠舞香、精一杯これから頑張ろうと思います。






…ニコッと笑いかえそうと思ったあたしの顔は引きつっていたに違いない。














「しーーーーーのーーーーー!!どうしよう!?」





「どうしようって何が。」




「だってこの昼食が終わったら、当番なんだよ!?」






教室で嘆きながら紫乃ともぐもぐ、昼食なう。






「いいじゃない、別に。一ノ瀬くん私のイケメンレーダーに反応したのよ?それに性格も良いって噂なのに。」





「そりゃあそうだよ!昨日の委員会もめっちゃ優しかったよ!でもさ、昨日の今日で当番とか緊張してぶっ倒れちゃう!!」





「私、てっきり舞香は恭平くんでイケメン慣れしてるんだと思ってたわ。」





「イケメン慣れなんてするわけないじゃん、恭平くらいで。」





「そこはさらっと冷静になる舞香がこの学校の女子にどれくらい羨まれてるかわからないの?」





「あー、もうその話はやめてー。どうせ幼馴染いいなーって話でしょ?もう慣れた慣れた。」






耳を軽く塞いだあたしを冷めた目でチラッと見る紫乃の美人さにため息をつく。




なんで紙パックのぶどうジュース飲むだけでこの子はこんなに美しいんだろう…。






「あたしも紫乃くらい美人さんだったら当番もウキウキなのになぁ…」




「何言ってるのよ。舞香は可愛いんだから自信持ちなさいよ。」




「そんなこと言ってるの紫乃だけだよ!うーん、ラブッ!」





「その誰にでもラブっていう癖やめなさい。」






「…え、なんで?」




「ったく、鈍いんだから。早くお弁当食べて早く当番行ってきて。」







紫乃の言葉にハッと目を見開く。




そうだった、当番当番言ってたけどいや、早くお弁当食えよって話だったね、忘れてたわ。













「…緊張でご飯が喉につっかえるよ、紫乃どうしよう。」






「の割りには箸が止まってないけど。ていうかもはや完食してるように見えるけど。」







……、確かにのどにつっかえてはないけどさ。







紫乃の的確なツッコミには相変わらず頭が上がらない…。







何て思って時計をチラッと見ると当番の時間まであと約5分。







1階のこの教室から2階の図書室まで2分もかかんないからお弁当片付ければ間に合うかな。








「じゃあ、紫乃。あたし行ってくるね。」






「…不思議。舞香は一ノ瀬くんと同じ当番なんて喜ぶかと思ったのに。」








ボソッと言ったあたしに今更ながら眉を寄せて首を傾げる紫乃。







「…いや、嬉しいけど。なんか、なんだろうね。……イケメンすぎて辛いんだよおおおおお!!!」







大声で叫んだあたしに“なんだ、元気じゃねえか”って目で紫乃があたしを見た気がするけど、









まあ、気のせいにしとく。うん、きっとそう。









まあそのまま教室から出て図書室へ向かった。







…いや、紫乃に誤解を与えてたらごめんなんだけどね?







嬉しくないわけじゃないのよ。







いや、嬉しいんだけどね。なんか緊張するっていうか。緊張するのが嫌っていうか。







いや別に一ノ瀬くんが嫌ってわけじゃないんだよね。







例えばね例で言えば作文で褒められてじゃあ全校生徒の前で発表してくださいみたいな。






作文で褒められて嬉しいけど全校生徒の前で発表するの緊張するなあ嫌だな嫌だなみたいなね。







…あれ、あたし説明くっそ下手だな。







なぜにこの例。全然伝わってない気がする。












──────────…





「返却日は今日から1週間までです。」





当番なう。カウンターなう。





着々と本のバーコードをコンピューターに読み込ませてお決まりの台詞を言っていく。






…あたし、こういう作業案外向いてるかも!!





何て思って不審に思われない程度にヘラッと笑う。





一ノ瀬くんはというと、返却された本を本棚の元あった位置へ戻す係り。






最初はあたしがね、イケメンな一ノ瀬くんがカウンターやった方が絶対色んな人が嬉しいと思ってその係りやろうと思ったんだけど、






『小篠さん女の子なんだからいいよ。こういうのは男がやるものだから。』






って爽やかスマイルで言われたらもう色々お手上げだよね。







すっごいきゅんってきた!!!こりゃみんな惚れるはずだよね!!!






これが恭平だったらやってくれるとは思うけど「いやいや舞香チビすぎて届かないだろ。俺がやった方が効率いいんだよバーカ。」って言われるよ。確実に。







152cmのあたしに喧嘩売ってんのか!!!って話だよね。






確かに台がないと上の方の本なんて全然届きませんけど!!







…なんかイラっときてバーコードを押すスピードが異様に速くなってしまった。






ピッ、ピッ、ピッくらいだったのが、ピッピッピッピピピみたいな。






あ、やっぱ説明下手だなあたし。






まあというわけで、180cmくらいはありそうな一ノ瀬くんの言葉に甘えてカウンター当番のあたし。







当番に来る前はなんか少しだけ憂鬱だったんだけど。







来たらなにそれ?憂鬱って何それ?ってくらい楽しい!!!








一ノ瀬くん普通に優しいし、カウンター楽しいし、司書の先生は良い先生だし!









普通にエンジョイしてた!あたし!!