好きって気づけよ。





私を静かに見下ろす凪くんは、冷たい声で言った。




「お前のお望みどおり……幼なじみ終わらせてやるよ」




冷たく突き放して。

凪くんは私をおいて、ひとりで階段をのぼっていった。



その瞬間、さらに涙があふれだす。


頬をつたってこぼれて、ぽたぽたとスカートにいくつも染みをつくっていった。




「ふええ~……っ」




――凪くんに、嫌われちゃった。



こんなこと、誰も望んでないよ。

私が本当に強く願っていたのは、幼なじみの終わりじゃないよ。



だけど、私は器用じゃないから……こうするしか道はなかったのかもしれない。



 




もう、終わりなんだ。



もう話なんてできない。

もういっしょに登下校なんてできない。


もういっしょに勉強することも、つくったお菓子を食べてもらうこともできない。



王子さまみたいな優しい笑顔も、ヒーローみたいに助けてくれることも……


もう――……




「うわあああんっ……!」




悲しくて、つらくて、苦しくて。

いままででいちばん、心が痛かった。



私はその場にすわりこんだまま、


レミちゃんと舞香ちゃんが来てくれるまで、ずっと泣き続けていた。




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☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆





【素直になりましょうよ】




幼なじみだからはもう終わり


素直な理由で、そばにいて。





☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 

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*凪SIDE*





正直にいえば、


心愛が嘘をついていたことなんて、最初からわかってた。



 




当たり前だ。

誰よりも近くであいつのことをずっと想っていた俺が、わからないわけがない。


それに心愛、嘘つくの下手なんだし。



けど……



すっげームカついたから。




「はあ……」




さっき心愛に言われた言葉の数々を思い出しては、重く落ち込んでいる俺。


夕日の差し込む教室で、ため息をつきながら机に突っ伏した。



情けねー……。

でも、けっこうなダメージ負った。




「まーまー。そう落胆すんなよ、坂野くん」



 




向かいに座っているやつが、俺の肩をぽんぽんと軽くたたく。


俺はムカッとして、そいつの手を思いきり振り払った。




「うわっ! こっわいなー。なぐさめてやってんじゃん?」


「うっせーな! もとはといえばお前のせいなんだよ!!」




がばっと顔をあげた俺は、目の前のそいつをにらみつけた。



目の前でニコニコしている、栗原。

相変わらず雰囲気がチャラい。



マジで殴りたい。

血吐くまで殴ってやりたい。




「心愛ちゃん、てっきりもう帰ってると思ってたんだけどねぇ。どっかで告白でもされてたのかな?」


「……そもそもお前が今日、俺を呼び出してこなかったら、こんなことにならなかったはずなんだけど」



 




ありったけ憎しみをこめてにらんでいると、栗原は「まいったね」と頭をかいた。



1週間ほど前から、俺と心愛はべつで登下校していた。

そうしようっていうメールが、心愛からきたから。



見かねた林にゲーセンにさそわれたけど、気分がのらないからパスした。



帰るためにひとりで正門を抜けたとき、なぜか俺のアドレスを知っていた栗原から、メールがきて。



栗原が指定した、この教室に向かう途中に……


心愛とはちあわせしてしまったわけだ。



つまりこいつのせい!




「つーか、なんで俺がライバルのお前に恋愛相談してんだよ!」


「ずっと想い続けてた幼なじみに冷たくされれば、そりゃ傷つくよね~」


「だからお前のせいだっつってんじゃん!!」



 




後悔さきにたたず。

まさにその言葉のとおりだ。



キスしたとき、あいつ泣いてた。


……いや、その前から泣いていたはずだ。



そういうのは、声ですぐにわかる。



けど、心愛が素直に涙を見せていれば、俺だってあんな傷つけることを口走ったり……



そこまで考えて、またずーんと落ち込んだ。



なに心愛のせいにしてんだよ俺。

ぜんぶ、自分のせいだろ。



あいつがよろこぶ言葉も、悲しむ言葉も、素直になれる言葉だって、

幼なじみの俺ならわかっていたはずなのに。



なんで俺は泣いてる心愛をひとりおいて、こんなやつのとこに向かったんだ……。



 




「優先順位がちがうだろ……」




心愛とさらに距離ができてしまったのは、目の前のチャラ男のせいだ。


もとはといえば、心愛が俺を避けるようになったのも、目の前のチャラ男のせい。



その本人は俺の思いなんて知らず、机に置いていたポッキーを、楽しそうに食べている。




「お前は女子か」


「ん?」




……いや、そんなことはどうでもいい。


俺が言いたいのはそんなくだらないことじゃない。




「栗原、お前……。なんで俺に好きなやつがいるって、心愛に言ったんだよ……」




栗原に全部、きいた。

心愛があの日、急に態度がおかしくなった理由。