「秋良勢源にお前を返してもらうように申してくる。
桐里は桐島園に従者と共に向かいなさい」
お父様と何十人となる人たちが
秋良様の屋敷に歩いて行かれていた。
私を何割かの彼の下郎に連れて行かれるのでした。
桐島園に行くのが2度目となった今、
私は何を想えばよいのでしょうか。
二人の物に運ばれる駕籠の中で
葵屋が遠くなっていき、
もう恐れから日々を暮す必要もないのですね。
増々、
宗十郎様を想ってしまう自分が馬鹿みたいでした。
彼は私が桐島園の座長の娘であることで、
惚れていると、
嘘の演技をしてくださっていたのです。
「桐里様は、
桐島様の命準じにて
桐島園の最上階が貴女様のお部屋でございます」
郭の人形が自由になれると思える、
思いたくて聞かれることの無いぐらいに
声を押し殺して涙を落とし続けてしまうのでした。
あの方々が何もとりえのない太夫などに
惚れるわけないと考えてみれば
理解できることのみです。