だから新しい着物だったんだな。 桐島様の気遣いか。 「葵屋の太夫は訪れるのか」 「訪れないでしょう。 陽の目を浴びせたくない秋良様は、 菊乃丞様と宗十郎様のみを許しなさっていますので」 「…わかった」 開園時間まであと間もなく、 舞台入りをし始めた。 丁度その時に柔らかい香りが鼻を伝い、 振り向いてみる。 野花の匂いだ。 期待とは別に、 役者の女役が持っていた水仙花にすぎないんだと。