嫌な汗をかいてしまう俺に喜ばせようとしていたのか、

「すべてを知りたいのは、

私の願望ですけれど…、

私の知る宗十郎様で、


私の心は壮大に満たされているのです」



それとも、霧里の本心であるのならば、俺は素直に喜ぶ。



「太夫」


「はい」


「特別席よりも舞台袖で見ていればよい、

これは私の我儘だ。

他の客に見られては、おもしろくはないのだ」


色っぽく流し目をおくる菊乃上の

甘い罠に引っかかることのないよう、


太夫の艶やかな髪を指で梳いた。