右も左も知らぬ女は怖がり、 俺だけを見ているようで優越感に浸ってしまった。 「悪いな。私は菊乃丞だ… おそらく、宗十郎は貴方を舞台に招待したいのだ」 「…いいえ、それは違います」 俺の方に顔を向けて、よく笑う綺麗な娘が、 「私の我儘を聞いてくださったからなのです」 菊乃丞ですら簡単に落としてしまうなのだろうと。 「…そうか、だが霧里太夫は宗十郎を知らない」