――― 俺の手を握る愛しい霧里は涙ぐみながら、 行かないで、と言いたかった気がした。 「大丈夫だ」 置かれた人形は遠くを眺めながら、 放っては置けないこの感情を処理できず、 恋にうつつを抜かしている暇などないというのに。 「どうした菊乃丞」 「昨日の葵屋はどうした」 「ああ、太夫か…。太夫ならそこにいる」