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どれだけ多くの人間が
不幸とやらに堕ちたとしても、
現在の私たちの幸せを優先させてしまうだろう。
「…お嬢様がおかえりだ。
温かい夜食の準備をせい」
役者見習いの連中や、
桐島様の使いに指示を出した
菊乃丞が桐里の頭を撫で、
「お帰りなさい、桐里様」
一睨みされる俺と大違いだ。
「あの、お父様は本当に
素晴らしいお人なのですね」
位はあまり高くなくても、
財力は門前町から全国まで
名を轟かせる大富豪、
百姓の地主、
最近は堺で商人と手を組んでいるそうだ。
「…いいか、桐里。
何を言われても断ること、
俺の返答を待ってから答える。
出来るか?」
生島野郎は、
何を考えているのかわからないが、
祝言を上げて桐島の跡継ぎになるつもりらしい。
「下準備が出来るまでは、
ここにいることになるだろうさ。
だが、お前は奥の部屋に隠れてもらわなくてはならない…。
秋良と同じことをしている、
それは承知しておるが
正面切ってお前を桐島様のために、
…私を愛すと決めたお前を命を懸けて守る」
「はいっ!」