「あれが例の」

「あるところの花街の太夫だそうだ」


世界を知らなかった私は

盗み聞くことが楽しみでしたが、

もうそれもそうでなくなり、

私の生きる糧は宗十郎様を

想い続けることでした。


「吉宗様は

桐里に暇を持て余すなと思し召しだ」


「貴方様はどなたでしょうか」


「私は田沼意次、

本来此処に来る身ではないが」


田沼様はとても美しい顔で、

視線を途に向けてみますと

女性たちが赤くなっており、

納得しました。


吉宗様は

私を喜ばせようとしているのですね。