まさか、桐里の隣の男が、
お上であることなんて知るわけがない。
言ったろう。
私は田舎者であると。
「宗十郎様ぁ!!」
遠くで声が聞こえたが、
私は無視をした。
「よろしいのですか?」
「知らぬ。
あの売女など、汚らわしい。
早くに病気にかかって死ぬだけだ」
人一倍寂しがり屋で、
愛しい女だった桐里を
俺は切り捨ててしまった。
どうせ、すぐに帰ってくるだろうと。
だが、帰ってこれないことは
想像できなかったのだ。
男が将軍だったなんてな。
「では参ろう」
「ええ、
その茶屋は桜餅がとてもおいしいのですよ…―――」