自分の胡坐の上に娘をはべらせ、 「宗十郎様の演劇を見に行ってもよろしいですか?」 「…いいが、太夫は外に出たことがないのでは」 遠い目をして、悲しそうに微笑んで俺の胸板に顔預けた。 「生まれてからずっと…ここにおりましたから…」 「…ずっとなのか?」 こくり、頭を傾ける娘。 まさかこれから、この女と恋に駆け落ちするなんて 思いのほか想像なんて出来なかった。