「お前、布巾はどうした」
「あ…それは、私たちを出させてくださった
吉宗さまが持っていると思います」
吉宗…、
どこかで聞いたことのある名前だ。
「運がいい。
だが桐里、勝手な行動はしてはいけない…」
「人を助けることが勝手な行動ですか?」
「…私が助けるからお前は
私の言う通りにしなさい。
桐島様からの連絡が来るまで」
女が一礼するのを見送り、
誰もいないことを確認してから
小さく口付けを交わした。
「…吉宗…吉宗…どこかで聞いたこと…」
どうしても思い出せなかった。
自分の育ったところは有名でも
名をとどろかせる地域でもない。