「へぇ~意外と難しくないんですね」

「うん、香織ちゃんは楽器なに?」

「ギターとドラムです」

「マジで?じゃ、俺が教えてやろっか」

「はい、ぜひ!」


あたしは部室の隅にある椅子に座り、
先輩と仲良くはなす香織を見つめていた。
香織いわく、
「あの先輩は結衣に譲って、あたしはドラムの先輩狙う」
とか。
ドラムの先輩(健二先輩)は、
香織の好きなタイプもろ、らしい。
あたしも、先輩と話したいのになぁ


「えっと、結衣ちゃん?」

「え」

部室で香織以外の人に名前を呼ばれて、
驚きつつ振り向いた。
そこには、“あの先輩”がいた。

「何で、あたしの名前…?」

「香織ちゃんに聞いたんだ。だめだった?」

「いえ、そんなことないです!」


「なら良かった」と、先輩は笑う。
きれいに笑う人だなと思った。
先輩は、あたしの隣に椅子を持ってきて座った。

「あの、先輩の名前は」

「“凌”。凌先輩って呼んでくれていいからね」

「は、い」


“凌先輩”。
世の中に“りょう”なんていっぱいいるのに、
いい名前だなーなんて思った。