そして今に至る。
「秋紀お嬢様。お持ちしました。」
麻耶は持ってきたグラスをテーブルの上に置く。
「サッパリしたものを、と思いレモンスカッシュを作ってまいりました。」
「ありがとう。」
秋紀はグラスを持ち、ゆっくりと口に含む。
火照った体にスゥーッと染み渡る。
「レモンスカッシュかぁ…」
つい漏れた一言に麻耶は首を傾げる。
「はい、秋紀お嬢様お好きじゃありませんでしたか?」
「好きよ。思い出の味なの。」
秋紀には幼馴染みがいた。
名前は遠山朝陽。秋紀の家の隣りに住んでいて、秋紀より1つ年上でとても優しい男の子だ。
秋紀が九條家に入る前、相沢秋紀だった頃は毎日のように遊んだ。
家に行くといつも朝陽の母親がお菓子と手作りのレモンスカッシュを出してくれた。
いつも優しくしてくれた朝陽。泣いている時には頭を撫でてくれ、怒られながらも宿題を手伝ってくれたりした。
秋紀は朝陽を兄のように慕い、幼いながらも朝陽に恋心を抱いていた。
本当は挨拶をしてから九條家に入りたかったが、退院するとすぐ九條家に引き取られたため挨拶ができなかった。
秋紀が12歳の時、父親から元の家の住所を聞き、行ってみたが当たり前のことながら自分の家はなくなっていた。
そして隣りにあった遠山家もなくなっていた。
事故の2年後に引っ越したらしい。

秋紀は朝陽を忘れたことはなかった。
会えるならば会いたい。
しかし、遠山家の引っ越し先はわからない。
昔の知り合いに聞こうにも九條家から元の家へはかなり距離があるため頻繁には通えない。
結局何もわからないままさらに6年の月日が流れたのだ。