父に連れてこられたのは応接間だった。
誰かお客人だろうか?そう思いながらもソファに腰掛ける。
「秋紀、実はだな…」
父からの話。それは今朝母に言われたことと同じで護衛をつけたいとのことだった。
「お父様、私にはまだ早いと思います。」
今朝母に言ったことと同じことを父に言う。
「お前ももう17だ。あと1年もすれば外からの誘いがたくさん来るだろう。」
「ですが…」
「護衛なら信頼できる者の方がいいだろう?1年のうちに信頼関係が生まれれば良いと思うのだが…」
父の言うことには一理ある。このまま断っているのも今は通用するが、あと1年経つと通用しなくなる。
そう思うと今受け入れるほうがいい気がしてきた。
「わかりました。」
秋紀が受け入れると父はこれ以上ない喜びの表情になる。
「そうか!それはよかった。実はもう専属の護衛を見つけてある。」
入りなさい。と父が言うとドアが開き青年が1人入ってきた。
明るめの茶色に少しハネた髪。長身の青年だ。
あの髪…朝陽みたい…
今でも忘れられない初恋の相手を思い浮かべたが、いや!もう会うことはない!!と頭を振る。
そんな秋紀の前に青年は跪く。
そして秋紀を見上げる。その瞳に秋紀は見覚えがあった。暗めの緑色…朝陽と同じ色の瞳だ。
「お初にお目にかかります。本日より秋紀お嬢様の執事になります。遠山朝陽です。」
遠山…間違いない、この青年は…
「あ…さひ?」
秋紀は声が震えそうになるのを堪えながら名前を呼ぶ。
「はい。この短時間で名前を覚えて頂けるとは光栄です。」
朝陽はニコッと笑顔を作る。
ああ、そうか…
あれから8年も経つのだ。朝陽が秋紀のことを覚えているはずがない。
覚えていたとしても今は九條秋紀だ。あの頃の相沢秋紀ではない。同じ名前などいくらでもいる、気付くはずがない。
今の朝陽の口調からして秋紀に気付いていないだろう。
秋紀の喜びは一瞬にして消えた。
「よ…よろしくお願いしますね。」
秋紀は泣かないようにそう言った。
これからは相沢秋紀としてではなく九條秋紀として朝陽と付き合わなければいけない。
初めて朝陽と出会ったように付き合わなければいけない。
だって秋紀は主、朝陽は執事なのだから。