部屋に着いて、ゆっくり玄関のドアを開けて閉めた。
「そうか...慶起がそんなことを」
「ええ。本当に家族想いでいい人だなと思っています。」
奥の方から聞こえる、優しくて穏やかな話し声。
その話にほんの少しばかり耳を傾けてみることにした。
ある意味盗み聞きだけど……。
「それはよかった。慶起は私が言うのは可笑しいが顔はいいんだけどね、無口で無愛想なもんだから親戚にもなかなか好かれなくてね。…本当によかったよ、笑美さんが出会ってくれて。笑美さんのおかげだ、あいつが変われたのは」
「いえいえ、とんでもない。お父さんが慶起さんをしっかり育てられたからですよ。私は何も。それに、あんなに優しいのはお父さん譲りですよ。」
「ありがとう。なかなか褒められるのは照れくさいものだな」
ははっ
と父は笑った。
よし、そろそろ帰ってきたフリをしますか。
「ただいまー」
「あぁ、お帰り」
「モンブラン買ってきた」
そうか、ありがとう
と言った父のその顔はどことなく嬉しそうで、小さい事ではあるけれど初めて"親孝行"が出来たような気がした。