力強く拍動する流星の心音が聴こえる。



彼の心と一体となって脈打つ速い心拍は、

『生』を迷い苦しみ、そして受け入れ、喜びと感謝の中で生きている証。



私達の望みは何もかも満たされ、今は迷いも怖れも不安もない……筈。



有るのは幸せだけな…筈。



なのに…どうしてだろう……


心地好い流星の心拍に、不協和音が混ざって聴こえるのは……



ああ…そっか…

雨。外は雨が降っている。



冷たく重たい雨音が部屋の中まで入り込み、

2人が奏でる心地好い音色に、不吉で歪(イビツ)な和音を混ぜ込んでくるんだ。



昼間はあんなに秋晴れのいい天気だったのに、夜半を過ぎて降り出した雨は

徐々にその強さを増し、窓ガラスを激しく叩き出した。



一瞬の稲光が、部屋の中を明るく照らし出す。



遠くの雷鳴と吹き荒れる風、

勢いを増した雨が柏寮を激しく打ち付ける。



流星が腰の律動をピタリと止めた。




「雨…… これは放っといたらまずいな……」




そう呟いた理由は、柏寮の古さにある。



小雨なら放っとく事もあるけれど、ザーザーと音を立て降り出すと、2階の廊下の3ヶ所で決まって雨漏りが始まる。



そろそろ取り壊し…とまで言われている昭和の古い建物だから、雨漏りするのは仕方ない。



その場しのぎの対策で2階の廊下の隅には、いつも大きなバケツが3つ常備されている。



先に雨に気付いた人が、そのバケツを雨漏りの箇所に設置しに行く。



いつもは2階の住人の瑞希君が先にやってくれるけど、

今は真夜中。
熟睡して雨に気付いていないかも知れない。



私も流星もそう考え、快楽より雨漏り対策を優先せねばと体を離しかけた。



その時、ベットの枕元に置いてあった流星のスマホが短く鳴り、メールの着信を告げた。