「ワハハ」と笑わずに答えた彼の説明は、
分かった様な…分からない様な…上手く丸め込まれた様な……
蟠(ワダカマ)りを私の心に残し、スッキリしない。
それなら正解としてではなく、我妻さんの一意見として『彩』の意味を教えて欲しいと食い下がると、
「一つだけ…」と言って教えてくれた。
「『彩』と言う漢字が好きなんだ。
妻の名前“アーニャ”に勝手に漢字を当て『彩(アヤ)』と書いたりしてる。
展示する写真はアーニャも一緒に選んでくれたから
『彩(アーニャ)の写真展』て意味にしとこうかな〜ワハハッ!
と言うのは冗談だけど、あの写真に解説やタイトルを付けなかったのは、自由に感じて欲しいからなんだ。
文字を見るとイメージが狭まり、その枠を越えた発想が出来なくなるからね」
と言うことは…
やっぱり我妻さんなりの『彩』の意味は教えてくれないと言うことか……
天井のチューリップ型の照明には、白いプロペラが付いていて、私達の真上でゆっくりと回転していた。
流星はそれを見上げながら、何かを考える素振りをしていたが、視線を我妻さんに戻すと口を開いた。
「一つ気になっていたのですが、初めの方に観光地の写真が5枚続いていたのは…
撮影地がロシアである事を客に気付かせたかったからですか?
タイトルや解説は付けたくないけど、ロシアである事を分かって見て欲しくて、
有名観光地を背景にした写真を初めに持ってきたんですか?」
「Да(そう)!君は中々冴えてるなー。
若くて聡明でイケメンで、おじさんは羨ましい!
こりゃ、モスクワに遊びに来ても妻には会わせられないぞ?
君に惚れたら、困ってシマウマ、なんつって!ワハハッ!」
彼の親父ギャグに愛想笑いで応えてあげてから、流星が真面目に話しを続ける。
「やっぱりそうでしたか…
あの観光地の写真だけ、とって付けた様な感じで、展示している意味が分からなかったんですよね。
けど…残念ですが、あれを見て『あ〜ロシアなんだ』と気付く日本人は少ないと思いますよ?」
「…… マジで…?
世界遺産なのに…?」
「世界遺産だからと言って、日本人にそれ程馴染みがあると思えませんね。
現に『どこの国?』と話している客もいましたし…」