「ここのクラブハウスサンドは、僕の知ってる中で3番目に旨いって言っただろ?

1番はアーニャが作るヤツなんだ。

モスクワに来たら是非うちに寄ってよ、絶品サンドイッチご馳走するから」




彼はそう言って、職場兼自宅の住所と電話番号、メールアドレスが印字された名刺をくれた。



モスクワに遊びに行くのは…難しいかも。



私は貰った名刺をすぐに鞄の中にしまったけど、

流星は、私には読めないキリル文字で書かれた住所を指でなぞり、じっと見つめていた。




「ロシアか……行ってみたいな……」




そう呟いた声が何と無く淋し気に聞こえた。


行きたくても行けないと言ってる気がして、流星の横顔を見た。



帰省するのも一苦労な私には海外旅行をする自信は無いけど、

流星は行けるでしょ?
行ってみたらいいのに……




6年前の夏、幼い私にはまだ難しかった古いロシア文学を、流星は好んで読んでいた。



きっとあの頃からロシアに強い関心を持っていたのだろう。



それは知っていたけど、ロシア語を話せる事までは知らなかった。



英語なら流暢に話す姿を見た事がある。



余談だけど、フィリピンの教育推進なんたらと言う肩書の視察団がうちの高校を来訪した時に、

英語の先生に頼まれ、流星が通訳していた。



英語とロシア語と…他にも話せる外国語があるのだろうか?

今度聞いてみよう。



そんな事を考えていると、ようやく注文した料理が運ばれてきた。



随分と時間が掛かったけど、相変わらず店内は混み合っているから仕方ない。



それに我妻さんの話しを聞くのは楽しくて、長い待ち時間もイライラしなかった。



お勧めのクラブハウスサンドは、こんがりとトーストされたライ麦の食パンに、

ベーコン、ローストチキン、レタスとトマトが挟まり、

自家製マヨネーズとマスタードで味付けされていた。



一口かじるとレタスがパリパリ音を立て、ローストチキンから肉汁が染みだし、トマトの甘味と酸味が広がった。



上質なベーコンは塩加減が調度良く、燻製の薫りが上品に口に広がる。



マヨネーズもマスタードも新鮮で、マスタードの粒の食感がアクセントになり口の中に気持ちいい。




「すっごく美味しい!!」