人物のない左側の写真パネルのこの家屋は、

『生』を感じられず、廃墟の様にも見えるけど、

この家で暮らす家族が写った右側の写真は、私に沢山の想像をさせてくれた。



この写真を写した少し後には、「ご飯だよー」と母親が呼び掛けて、そのドアが開けられる事だろう。



昼食は何だろう?

ボルシチかな?それともペルメニ(ロシア風餃子)かな?

そう思うのはこの写真のせいだけじゃなく、

さっきの『全国うまいもん市』で、宇都宮餃子を食べたいと、流星が言ったせいかもしれないけど……




白黒でも人物を入れた写真は、こんなにも雄弁に色や音や匂いや時間まで語りだす。



この写真家にとって、
『彩』とは人間とその生活なんじゃないかな。



我妻ミチロウさんに聞いてみないと、本当の意味は分からないけど、私はそう感じていた。



見に来て良かった。

私の写す写真にはない、大切な事を教えて貰えた。



今まで私がフラノで写してきた風景写真は、わざわざ人を入れない様にしていた。



純粋な風景のみのカラー写真。

フラノの美しさは十分に伝えていると思っていたけど……



この写真展を見た後の今は、過去に写した写真達に、物足りなさを感じてしまう。



来年のラベンダーの季節には、ラベンダー畑を見ているお客さんの表情や、働く私達の姿を入れてみようかな……



そうすれば色彩の美しさだけじゃなく、

お客さんの柔らかい表情からラベンダーの香りを想像できたり、

服装から気温なんかも伝えられるかもしれない。



観光農園で働く私達の姿を、ラベンダーを背景に見て貰うのも面白い。



うん、ただ綺麗なだけじゃない面白い写真になりそう!



人か…人を入れるのか……



そんな事を考えながら中央の写真パネルを見つめていると、


いつの間にか隣に流星が立っていた。



流星も彼なりの面白味を見出だした様で、

さっきまで私達はそれぞれの想いの中で、別の写真を見ていたのだけど……