背景は夜の様に暗い。

緯度の高いロシアの雪の季節は、きっと日の出がかなり遅いのだろう。



背景が暗いせいで、開けられたドアから洩れる明かりが一際明るく暖かく感じられた。



毛皮の帽子を外し、牧師さんに挨拶する村人の口元からは白い息が上り、


「寒い中ようこそいらっしゃっいました」

「今朝は一段と冷え込みますね」

「そうですね、ささ早く中へ」


そんな会話が聞こえて来そうな気がした。



極寒の外とは違い、きっと教会の中は薪ストーブが赤々と燃え、

その上に乗せられた蒸発皿から、湯気が立ち上っている事だろう。



この写真をじっと見ていると、教会の鐘の音や賛美歌まで流れてきそうな気がする。



左側の人物のない写真を見た後に右側の写真を見ると、

白黒写真が急に色付き始め、日曜礼拝に訪れた人々の、鮮やかな色彩を感じた気がした。




2つ目の作品は、狭い石畳の道と、その道沿いの建物の写真。

もちろんこれも白黒。



奥に行くに従い、緩やかにカーブを描く石畳の道。

その道の真ん中に立ち、奥に向けてシャッターを切ったみたい。

奥行きを感じさせる素直な遠近法だ。



道沿いの左手前の建物は、世界中で有名な某珈琲ショップ。

右手は3階建ての小綺麗なマンション群。



教会の写真と同様に、この作品も左側の写真は、人物のない背景だけのもの。



きっと早朝に撮影したのだと思う。

オープン前の珈琲ショップのテラス席は、日避けのパラソルが畳まれて、

椅子も裏返してテーブルの上に上げられている。



人も車も通らない石畳の道の真ん中で、黒猫が一匹、まるで置物の様に丸まってこっちを見ている。



この無人の写真もやっぱり白黒写真は白黒のまま、何の色も感じさせてくれなかった。



猫さえも色を失い、人工物の様な無機質な存在に思えてしまう。



その色の無い左の写真パネルから、右の写真パネルに目を移すと……

ほら、白黒写真が鮮やかに染まっていく……