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流星に連れて来て貰った『彩の写真展』は、私にとって色んな意味で予想外だった。



デパートの催事スペースの一角でひっそりと簡素な佇まいを見せるこの写真展は、

入場料も取らず写真販売もせず、

展示している作品の数も20ちょっとしかないから、商売目的の物ではないらしい。



入った瞬間は、なぜ白黒写真なのかと不思議に思い戸惑った。



でも、壁に貼られた写真をぐるりと一巡した後に、

中央のパーテーションに展示された大きな写真パネルを見て、『彩』の意味が分かった気がした。



この写真家…我妻ミチロウさんにとって、

『彩』とは、『人の営み』全てについての表現なのだと感じた。



中央の大きな写真パネルも勿論白黒写真で、2つのパーテーションの表と裏に計4作品展示されていた。



それらは似たような2枚の写真を左右に並べ、2枚1組という形で展示されている。



左右に並べられた写真の左側は、人物の入っていない背景のみの写真で、

右側はその背景に人物が加えられた物になっていた。



これを写した写真家は

『背景のみ』の写真を見た後に『背景プラス人物』の写真を見せて、

何かを感じて貰いたかったのだろう。




最初に見た作品はロシアのどこかの村の、小さな教会の写真。



観光地の写真の中にあった立派で華美な大聖堂とは違い、

農村の人々の生活の中で息づいている様な小さな教会。



緩やかな曲線を描く屋根が特徴的で、

木製のアーチ型ドアとT字の格子が嵌(ハ)められた窓枠には、精緻な彫刻が施されている。



外壁の塗装の修繕の跡が目に付いて、長い年月修復を重ねながら、人々から愛され大切に守られてきた建物なんだろうと想像させる。



しかし左の写真だけを見ると、そのドアは固く閉ざされ、チラチラ降る雪の中で静かに佇む姿は、

どこか冷たく表情がなく、白黒写真は白黒のまま色を感じさせてくれない。



一方右側の写真は教会の扉が開けられて、

入口に立つ牧師さんが、礼拝に訪れる村人をにこやかに迎え入れている。